電磁的記録

2019年10月9日

EDC管理シート特有の監査証跡要件

EDC管理シートの要件項目

EDC管理シート[1] 「3.電磁的記録利用のための要件」ER/ES指針3.1.1.

(2)保存情報の作成者が明確に識別できること。また、一旦保存された情報を変更する場合は、変更前の情報も保存されるとともに、変更者が明確に識別できること。なお、監査証跡が自動的に記録され、記録された監査証跡は予め定められた手順で確認できることが望ましい。
の要件項目に「作成・変更等に係る監査証跡の概要」とあり、以下のようなチェック欄があります。

可 不可 保存情報の作成者が明確に識別できること
可 不可 自動計算されたデータであることが明確に識別できること
可 不可 他のシステムからローディングされたデータの責任の所在が明確であること
可 不可 保存情報の変更者が明確に識別できること
可 不可 変更前の情報が消去されない
可 不可 監査証跡の閲覧(依頼者)
可 不可 監査証跡の閲覧(医療機関)

 

違和感のあるところ

最初の「保存情報の作成者が明確に識別できること」を見て、普通の監査証跡要件だな、と思っていると、「自動計算されたデータであることが明確に識別できること」「他のシステムからローディングされたデータの責任の所在が明確であること」と続けざまにPart 11 [2] でも聞いたことのない要件が出ていて驚かされます。Part 11 Preamble [3] #72で述べているように、監査証跡は人の操作を記録するものであり、FDAには、バックグラウンドで行われる、人の操作によらない記録を含める意図はなかったわけで、その観点からすると、明らかに自動計算や他のシステムからローディングのようなバックグラウンド処理を監査証跡に残すのは違和感があります。

 

何が求められているか?

では、なぜこれらの要件が含まれているのでしょうか?
医薬品医療機器総合機構の発表資料[4]を見ると、EDCシステムの監査証跡機能が不適切だったことに端を発しているようです。推測ですが、データ入力する画面を「保存」するタイミングで、画面上のデータが入力されたと監査証跡に記録するようなシステムであったと思われます。その際に、実際に入力したデータも、自動計算されたデータも、他のシステムからローディングされたデータも混在しているにもかかわらず、監査証跡上は全て人により「入力された」ことになってしまったことが問題視されたようです。
確かに、システムが計算したデータや他のシステムからローディングされたデータも、操作者が入力したことにするのはよくないですね。

 

FDAはどう考えているか?

この要件を考えるうえでFDAのeSourceガイダンス[5]が参考になります。このガイダンスではeCRFのデータ毎に:

  • データの発生元
  • データがeCRFに投入された日付時刻
  • データの帰属する治験被験者
  • 修正時の日付・時刻、修正者、理由

を残すことを求めており、これに従えば、自動計算であれば当該システム、ローディングされたデータであれば相手先のシステムがデータの発生元として記録されるようになります。

 

まとめ

eSourceガイダンスに従うように作ってあるシステムであれば、EDC管理シートの監査証跡の要件項目を満たすことができそうです。ただ、この要件項目を満足する方法は一つではありません。それぞれのシステム供給者が工夫を凝らして対応していると思います。EDCシステムを採用するときは、事前にシステム供給者がどのようにこの問題を解決しているか評価することが重要と考えます。


― 参考文献 ―
[1] EDC管理シート(治験依頼者/製造販売業者用), version.1.00, 独立行政法人医薬品医療機器総合機構

[2]United States Code of Federal Regulations Title 21, Part 11 “Electronic Records; Electronic Signatures”, 1997【和訳】(A)

[3] U.S. FDA, 21 CFR Part 11 [Docket No. 92N-0251](Preamble), Federal Register Vol.62, No. 54, pp. 13430-13466, 1997【和訳】(A)

[4] 清水 亜紀, 「EDC管理シートについて」, 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 信頼性保証部, 日本製薬工業協会医薬品評価委員会シンポジウム-治験関連業務の電子化に向けて, 2013

[5] U.S. FDA, Guidance for Industry, “Electronic Source Data in Clinical Investigations”, 2013【和訳】(A)

【注】
(A) : アズビル株式会社様が翻訳したものです。
アズビル株式会社様には、本サイトで掲載することをご承諾いただいております。