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2024年7月24日

PIC/S DI ガイダンスを訳してみて

2021年7月にPIC/S “Good Practices for Data Management and Integrity in Regulated GMP/GDP Environments”が発出されました。
文善では、和訳を作成し、(https://bunzen.co.jp/manage/wp-content/uploads/BZLib-119_PICS_DI_Guidance_r1.3.pdf)で公開していますが、以下に翻訳の過程で気づいたことについて述べたいと思います。

Controlと Management
ともすればどちらも「管理」という訳語を当てたくなりますが、PIC/Sガイダンスでは明確に区別しています。Collins Cobuild Dictionaryの定義では:
Controlは、”To control a piece of equipment, process, or system means to make it work in the way that you want it to work”.
Manageは、”To manage an organization, business, or system, or the people who work in it, you are responsible for controlling them”
となっています。つまりcontrolの対象は機器・プロセス・システムで、manageは組織・ビジネス・システムや人となっています。野球で言えば、ピッチャーがボールの行先をコントロールしますが、監督はピッチャーの続投・交代を決めます。文善訳では、両者を「コントロール」と「管理」で訳し分けました。

Assessmentと Evaluation
どちらも「評価」と訳そうと思いましたが、
ガイダンスでは、assessmentは、時折アセスメントという行為というよりは、結果や記録を指しているところがありました。
またまたCollins Cobuild Dictionaryで引くと:
Assessは “When you assess a person, thing, or situation, you consider them in order to make a judgment about them.”
Evaluationは “If you evaluate something or someone, you consider them in order to make a judgment about them, for example about how good or bad they are.”
辞書的には両者に違いはなさそうですが、PIC/S ガイダンスのassessmentの使われている場面は、単に評価を下すだけではなく、対象の説明、評価理由等を記述することが言外に求められているようです。

Records
日本語で「記録」というと、結果を書き付けたものをイメージしますが、PIC/Sガイダンスでは記入前のブランクシートもrecordsと呼んでいました。

Reconcile
例えば8.4で “Any issued and unused physical documents should be retrieved and reconciled.”とあり、「発行済みの未使用の物理的文書は、すべて回収し、照合する必要がある。」と訳しました。
ReconcileはCollins Cobuild Dictionaryでは ”If you reconcile two beliefs, facts, or demands that seem to be opposed or completely different, you find a way in which they can both be true or both be successful.” であり、相反する2つのものの折り合いをつけるといったかんじでしょうか。未使用の物理的文書について、管理記録と実際との齟齬がないかをチェックするということで「照合」という訳語を用いましたが、その齟齬を解消することまでも意図していると言えます。

Arrangements
Arrangementsは ”Arrangements are plans and preparations which you make so that something will happen or be possible” です。つまり、何かを実現するための計画・準備のことで、訳を「手はず」にしようか迷いましたが、結局は「準備事項」にしました。

Computerized system (コンピュータ化システム)
PIC/Sガイダンスでは、computerized systemを “A system including the input of data, electronic processing and the output of information to be used either for reporting or automatic control.” すなわち、「データの入力、電子的な処理、報告又は自動制御のために使用される情報の出力を含むシステム。」と定義していました。
ちなみにGAMP 5では、「コンピュータシステム」を「1台以上のコンピュータおよび付随するソフトウェアから構成されるシステム。」と定義し、「コンピュータ化システム」を「自動化製造装置、試験室の自動化機器、プロセス制御とプロセス解析、製造実行、試験室の情報管理、製造資源計画、臨床試験のデータ管理、安全性監視、および文書管理に限定されない広範囲にわたるシステム。コンピュータ化システムはハードウェア、ソフトウェア、およびネットワーク構成要素のほか、これらの制御機能と関連文書で構成される。」と定義していました。
PIC/Sの定義は、コンピュータ化システムというよりもコンピュータシステムに近いとも言えますし、ことさらに両者を区別するのをやめようとしているのかもしれません。