電子署名

2019年11月11日

タブレットに手書き署名したものは電子署名か?

支払いをするときにPIN コードの代わりにタブレットに手書きで署名することがあると思います。こういった手書き署名が筆跡鑑定できるのか?署名として有効なのか?という議論もありますが、今回は、このようなタブレットにする署名が、電磁的記録・電子署名の観点から、電子署名なのか、手書き署名なのか、を考えていきます。

 

Part 11の見解

Part 11 [1]は1997年に発効されましたが、このときに既にこのような署名を想定していました。Part 11のPreamble[2]では、「スタイラスによる署名行為が保存された場合、それが電子デバイスに対してなされたものでも、その結果生じたものは手書き署名である」(Preamble#53)としています。スタイラス (stylus)とは、タブレットに署名を行うペン状のポインティングデバイスのことです。

唐突ですが、Part 11.70では電子記録と手書き署名の紐づけについて触れていますが、なぜ手書き署名が出てくるのか不思議に思ったことはありませんか。

電子記録になされた電子署名及び手書き署名は、対応する各々の電子記録と紐付ける。

この要件は一般的に電子記録を印刷したものに手書き署名することと考えられていますが、スタイラスによる署名行為も手書き署名とすれば、Part 11.70に電子署名と手書き署名の紐づけも含まれて然るべきと納得できますね。

 

ER/ES指針の見解

厚生労働省のER/ES指針[3]では、そこまで細かく規定していませんし、パブリックコメントとその回答を見ても、そのような議論は見当たりません。ER/ES指針のPart11.70に相当する条文 4(4)には、この「手書き署名」の部分がありません。

4. 電子署名利用のための要件

(4) 電磁的記録に付された電子署名は、不正使用を防止するため、通常の方法では削除・コピー等ができないように、対応する各々の電磁的記録とリンクしていること。

現実的には、冒頭に述べたように、タブレットへの署名がどこまで署名として有効かという議論が落ち着かない限り、なかなか現場では使いにくいかもしれません。

 

E-SIGN ACT of 2000

余談になりますが、米国の電子署名法であるElectronic Signatures in Global and National Commerce Act (通称ESIGN Act )Part 11よりも後の2000年に発効されていますが、その電子署名の条件は以下の5つであり、スタイラスによる署名も電子署名と解釈されます。

① 署名者が明確な意図を以て署名すること。

② 取引当事者間で取引を電子的に進めることを合意していること。

③ 署名の帰属性、すなわち署名者が特定できること。

④ 電子署名と記録が関連付けられていること。

⑤ 記録が文書の有効期間を通じて保管できること。

 


― 参考文献 ―

[1] United States Code of Federal Regulations Title 21, Part 11 “Electronic Records; Electronic Signatures.” 1997【和訳】(A)

[2] U.S. FDA, 21 CFR Part 11 [Docket No. 92N-0251](Preamble), Federal Register Vol.62, No. 54, pp. 13430-13466, 1997【和訳】(A)

[3] 医薬品等の承認又は許可等に係る申請等における電磁的記録及び電子署名の利用について, 薬食発第0401022号, 平成17年4月1日

【注】
(A) : アズビル株式会社様が翻訳したものです。
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